第5回 高専の寮生活編(1) ~独特の環境に浸る5年間~

5年間一貫教育を支える寮生活を取り上げます。

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「沖縄高専の意義と未来」と題した特集も、今回で第5回となりました。仰々しい特集名ですが、追って、沖縄における沖縄高専の意義だったり、未来への提言といった内容にも踏み込んでいきたいと考えています。

さて第5回となる今回は、高専の寮生活を取り上げます。学業における高専の最大の特徴は、5年間の専門教育です。この仕組みを車の両輪のように支えるのが、全寮制を採る寮生活です。高専によって異なりますが、1年生と2年生は全寮制(必ず寮に入らなければならない)を採り、3年生以上は希望者だけ入寮するところが多いようです。

なお、筆者は沖縄高専の寮のことは知りませんので、これからまとめる内容は、筆者が5年間住んできた寮のお話です(5年間の内、いわゆる寮生会、指導寮生なるものを経験しましたので、寮の雰囲気はよく知っているつもりです)。どの高専寮にも、独特の雰囲気、文化があります。高専寮の雰囲気として、ご参考ください。

5年間一貫教育を支える寮生活を取り上げます。

5年間一貫教育を支える寮生活を取り上げます(写真はイメージです)。

寮生活も教育の一環

高専の寮は、「教育寮」 であるという言葉がひんぱんに語られます。つまり、寮はただ住むだけの場所ではなく、教育の場所であるという考え方です。私の住んでいた寮は、この教育寮という考えのもと、下記のような規則がありました。

テレビ、ゲーム、麻雀といった娯楽禁止。ちなみに、電気ポットも節電の観点から禁止。

部屋に鍵はなく、プライベートって何?という生活。夜の12時になるとコンセントから電気が来なくなり、ほんとに完全に消灯(この世の中で電気が使えないのは、高専の寮と北朝鮮ぐらいと揶揄されたものです)。朝は6時50分から音楽が爆音で流れ、グランドでの朝点呼。点呼は1日3回、朝7時、門限の8時、就寝前の11時でした。8時から11時の間は、机に座ってお勉強の時間。その名も完全自習時間。フェンスには外部からの進入を防ぐためという名目で、鉄条網が張り巡らされていました(実際の目的は、夜に寮から人が出て行くのを防ぐためとか何とか)。

このような寮でしたので、「監獄のような寮では無く、寮ような監獄だ」という名文句も生まれました。とは言っても住めば都。青春の我が家でした。日課はこんな感じです。

7:00-点呼:
晴天時はグランドに整列し、点呼の後ラジオ体操。ちなみにこの体操は死人の体操と呼ばれてました。

7:30-食事:
寮の食堂で朝食。毎日、決まりきったメニュー。毎年のように改善の要求が寮生から出されます。

8:30-登校
この時間まで寝ている学生は、強制的に寮務委員の人にたたき起こされます。この時間以降から学校が終わる時間までは、」誰も寮に入ることができません。

16:00-開寮
部活に入っている人はこの時間から次の点呼の間に部活をしたり、風呂に入ったり、夕食を採ったりします。

19:50-点呼
この時間から次の点呼の時間までが勉強時間。きちんと勉強をしているかどうか、教官が部屋を巡回します。

23:00-点呼

24:00-消灯

24時以降は、一切部屋に電気が来なくなりますので、文字通り真っ暗になり、強制的に就寝となります。

「心配するだけ損」の寮生活

筆者が住んでいた寮の部屋割は、1年生前期は、基本的に同じ学科の先輩後輩。1年生後期から同じクラスの人とでした。前期と後期の境目には部屋変えという大行事、いわゆる引越しです。寮の運営は、寮務委員という教官方の指導のもと、点呼、寮生への指導などは寮生会と呼ばれる学生の集団が行っていました。寮生会は寮のご飯をおいしくしろ運動だの、さまざまな規制を緩和しろだのといった運動だのを行う一方、点呼の集計など面倒なことを行う人達の集団です。

筆者が住んでいた寮では、寮生会になると部屋の鍵がもらえる、部屋を選べる等の特権がありましたが、なんやかんやと大変なお仕事です。どこの高専の寮でも問題となるのが、「盗難」、「喫煙」、「飲酒」の3点セットでしょうか?高専の5年生は20歳を過ぎているので飲酒、喫煙は法律的にはOKなのですが、「教育寮」であるという考えのもと、たいていの高専で全面的に禁止されているようです。

やはり伝統のある寮でさまざまな文化がありました。例えば、「寮語」なるものが存在しました。固有の言葉が存在するということは、すなわちそこに固有の文化があるという何よりの証拠でしょう。紹介したいのですが、あまりよろしくない言葉が多いのでやめておきます。また、「挨拶練習」なるものが存在しました。新寮生が入ったばかりの4月~5月に、朝点呼の終わった朝7時過ぎから30分ほど、ひたすら「おはようございますっ」を大声で連呼するという行事です。

指導するのは4年生の寮生会で、新入生にとってはおじさん以外の何者でもありません。これでもかっという大声で挨拶をするのですが、みんな疲れて最後には「おはようございます」が原型をとどめていない「おっざいやーす」に変化……。新入寮生200名あまりが「おっざいやーす」をひたすら繰り返すという、不気味な光景でした。このイベントで挨拶が苦にならなくなります。

その他にも、朝点呼前の放送で、教官のものまねをしてみたり、朝起きたらグランドに布団ごと移動させられている人がいたり、夜更かし耐久レースをしてみたり、いろんな面白いことがありました。沖縄高専でもこれからどんどんと、沖縄高専らしい文化が作られることでしょう。寮生活を心配する親御さんも多いかと想像しますが、心配するだけ損の一言に尽きます。入寮して間もないころは、ホームシックに悩む学生もいますが、半年もすれば、寮生活が普通の生活として馴染んでくるはずです。

次回は、沖縄高専のWebサイトにある資料から、沖縄高専の寮生活を想像してみたいと思います。