沖縄高専の航空技術者プログラム、高専に設置の意義は何か?

沖縄工業高等専門学校(沖縄高専)は2015年度(平成27年度)に航空技術者プログラムを開設する。高専4年次~専攻科2年次(大学1年~4年次に相当)の4年間で、航空整備士を目指すのに必要な基礎知識と技能を学べるプログラムという位置づけ。機械システム工学科、情報通信システム工学科、メディア情報工学科の4年次に進級予定の学生の中から9名程度を選抜する。

筆者は、沖縄高専に航空技術者プログラムを設置することに対して、以下に挙げた2つの観点から否定的な立場を採る。詳しく説明しよう。

航空整備士を目指すのであれば・・・

まず1つ目の観点は、「高等教育機関としての役割を曖昧にしていないか」という点である。

高専は、大学と同じ高等教育機関に位置づけられ、「深く専門の学芸を教授し、職業に必要な能力を育成すること」を目的にしている。「職業に必要な能力を育成すること」という点では、航空技術者プログラムの開設は高専の目的に合致しているかもしれない。

ただ、在学中に「一等航空運航整備士」または「二等航空整備士」の資格を取得できる専門学校も存在する(関連リンク航空整備士になるには?中日本航空専門学校Webサイト)。そんな中、高等教育機関である沖縄高専において、なぜ整備士の取得を目指したプログラムを立ち上げるのか、明確な理由をくみ取ることは難しい。整備士を目指すのであれば、高校卒業後、専門学校に進むのが最もスムーズだ。

高専卒業後の進路としては、大きく分けて国立大学工学部に編入学する進路と、専攻科に進学する進路、就職することの3つがある。編入学または専攻科へ進学した場合には、大学院まで進むことで、研究または開発という立場に携われるエンジニアというキャリアがある(高専から国立大学への編入学は大きく門戸が開けている)。就職の場合でも、大手メーカーからの求人は多い。筆者は、航空整備士という道に限定するのではなく、エンジニアとしての多様なキャリアを具体的に学生に訴求することが重要だと考える。

沖縄高専の学長を務める伊東繁氏は、「航空技術者プログラムの新規開設にあたって」と題した文章(平成26年9月発行のパンフレット)の中で、「沖縄高専として、今後の日本の航空機産業において、地域社会に貢献すること、優秀な航空技術者を育成することは、高等教育機関の使命の一つと考えています」と述べている。

優秀な航空技術者、エンジニアを目指してほしいというのであれば、航空工学科のある大学への編入学を支援してあげればよいのではないだろうか。パンフレット等の中で、航空技術者=航空整備士というように表現していることにも、違和感がある。
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情報通信、メディア情報の学生も対象!?

もう1つの観点は、「入学選抜の目的、結果を不明瞭にしていないか」という点である。航空技術者プログラムの科目としては、「整備基礎」、「航空工学」という文字が並ぶ。詳細は不明だが、航空整備士を目指すという目的から考えると、機械系の科目になることは想像に難くない。

それにも関わらず、航空技術者プログラムの対象には、情報通信システム工学科や、メディア情報工学科の学生も含めている。情報通信システム工学やメディア情報工学は、航空整備士にはほとんど関係のない科目だ。

沖縄高専自らが実施した入学選抜で、情報通信システム工学、メディア情報工学に興味があり、その道を突き詰めたいという学生を集めた。それにも関わらず、入学した3年後に、その学科とはほとんど関係のない進路を、キャリアの選択肢として学校側が正式に提示することに、疑問を感じる。

航空技術者プログラムの立ち上げには、中学生に人気の高い「航空」というキーワードを使うことで、なんとか多くの学生を集めようという狙いが見え隠れする。沖縄高専は、他県の高専に比べて、学生を集め、そしてエンジニア教育を推進するのに大きなハンデを背負っている。具体的には以下の3つが理由だ。

1、モノづくり不毛の地と呼ばれてきた沖縄という土壌
2、地元志向の強い県民性
3、大学進学率の低い沖縄の特性

美辞麗句だけを言うつもりはないが、ここにこそ沖縄に高専が生まれた意義があるのではないだろうか。エンジニアとしての多様なキャリア、工学や理学という学問領域の素晴らしさ面白さ、沖縄に高専を開校した意義を、内外にしっかりとメッセージとして強く訴求することが、沖縄高専の未来につながっていくのではないだろうか。