色素増感型太陽電池の長寿命化へ道、OISTが経年劣化のメカニズムを解明

沖縄科学技術大学院大学(OIST)のEnergy Materials and Surface Sciences (EMSS) Unitで准教授を務めるYabing Qi氏の研究グループは、色素増感型太陽電池の経年劣化メカニズムの解明につなげる研究成果を発表した。論文タイトルは、「Air-Exposure-Induced Gas-Molecule Incorporation into Spiro-MeOTAD Films」。化学・物性分野の学術誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」の2014年5月号に研究成果が掲載されている。

寿命と変換効率が課題だった「色素増感型太陽電池」

太陽電池を動作原理で分類すると、「pn接合型」と「色素増感型」に分けられる*1)。現在、広く実用化されているのはpn接合型のタイプ。一方の色素増感型は、比較的に製造が容易で量産時のコストが引き下げられる可能性が高いことや、カラフルな太陽電池を作成できるといった特徴があるものの、pn接合型に比べて換効率が低く、経年劣化が進むスピードが速いという欠点があった(参考資料1参考資料2)。今回の研究成果は、この経年劣化の抑制に焦点を当てたものだ。

Yabing Qi氏の研究グループは、色素増感型太陽電池において外部環境と接触する層(正孔輸送層、「spiro-MeOTAD」と呼ぶ材料を採用)の挙動に注目した。外部環境と接触するゆえ、大気との接触や連続日射、高温、ほこりやごみといったさまざまな原因で経年的な特性変化を引き起こしやすいからだ。これまで有力とされてきた「光酸化」と呼ぶ経年劣化の要因を分析したところ、「驚くべきことに」、実際には大気中の分子と日光に数日間さらされた後でも、光酸化は発生しておらず、spiro-MeOTAD層の特性も変化していなかったという。

さらに詳細に分析したところ、spiro-MeOTADのアモルファス性に経年劣化の要因が隠されていることが明らかになった。すなわち、結晶構造をもたないというアモルファス性ゆえに大気中の分子が簡単にspiro-MeOTAD層に取り込まれたり、通り抜けたりしていた。こうした大気中の分子が太陽電池にとっては不純物となり、経年劣化を引き起こしていたのだ。

「Yabing Qi氏の研究グループらは、詳細な分析の結果、異物の空気分子がspiro-MeOTAD層の経年劣化を引き起こし、長期にわたって太陽電池の効率の低下、つまり劣化を確実に引き起こしていると断定しました」(OISTのニュースリリース)。

201404_3

「spiro-MeOTAD」を採用した色素増感型太陽電池の経年劣化の要因は、大気中の空気分子が正孔輸送層に取り込まれたり、通り抜けたりする現象にあった。出典:OISTニュースリリース

今後は、spiro-MeOTAD層をカプセル化することで大気に晒されることを防ぐ研究や、今回解明したメカニズムをもとに経年劣化を起こしにくい材料の開発を進める。Yabing Qi氏は、OISTのニュースリリースの中で、「低コストにspiro-MeOTAD層をカプセル化することができれば、低コスト・高効率・長寿命化の三拍子そろった太陽電池を製造することが初めて可能になるかも知れません」とコメントを寄せている。

※冒頭写真出典:OIST。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のEnergy Materials and Surface Sciences (EMSS) Unitで准教授を務めるYabing Qi氏の研究グループ。

脚注

*1)太陽電池を材料という視点で分類すると無機系と有機系に分けられる。色素増感型太陽電池は、有機物を使うため有機系の太陽電池となる。有機系としてはこの他、有機物を使いつつ、pn接合によって発電する「有機半導体太陽電池」がある。

関連記事

有機薄膜太陽電池の実用へ一歩前進、沖縄科学技術大学院大学が研究成果を発表