準天頂衛星/外部センター制御――、沖縄久米島で自動走行の実証実験がスタート

ここ最近(特に2013年に入って以降)、人が運転せずとも自動車の走行を制御できる自動走行の技術に注目が集まっている。それには幾つかの要因があるが、最大の理由は、「社会インフラにおける自動車の役割が変わりつつある」という兆しを、自動車メーカーのみならず、IT業界をはじめとしたさまざまな業界の企業が、感じていることにあるだろう。

IT技術や無線通信技術、センシング技術の後押しにより、機械的な機構とモーターばかりが注目されていた自動車は、今や「ロボットカー」とも「スマートカー」とも呼ばれる新しい存在になりつつある。日本国内の幾つかの都市で自動走行の実験例があるものの、まだまだ研究開発が始まったばかりの新しい取り組みだ。

位置づけが変わる、社会インフラにおける「自動車」

そんな中、超小型EVモビリティの自動走行実験が、沖縄県久米島を舞台に2014年1月に始まる。デンソーとNECが実施するもので、本格的な実証試験に向けて2014年1月~3月の間に数回の試験走行を実施する予定だ。インターネット上で公開されている情報の範囲では、公道を使った超小型EVモビリティの自動走行実験に両社が共同で取り組むのは、今回が初めてである(関連記事)。

久米島町は、「久米モビの実証実験によって久米島町の奥武島・オーハ島をロボットモビリティの走行するアトラクションとし、新たな観光コンテンツとしつつ、観光客の移動手段の確保による利便性向上により、観光客の誘致を図る」ことを目標に掲げる。

準天頂衛星システムで10cm単位の測位精度を実現

久米島を舞台にした超小型EVモビリティの自動走行実験「久米モビ」の技術的な特徴は3つある。まず1つは、準天頂衛星システムの活用だ。準天頂衛星システムとは、日本のほぼ真上を通る軌道を持つ測位衛星を、複数組み合わせた衛星システムのこと。

スマートフォンやカーナビの位置測位には米国が打ち上げたGPS衛星が使われているが、周囲の状況によっては測位精度が1mを超えてしまうことも少なくない。これに対して、準天頂衛星のGPS補強信号を活用すれば、10cm単位の測位精度を確保できることになる。

NECの公開資料によれば、GPS衛星単体では122cmだった測位精度が、準天頂衛星を使った位置測位アルゴリズムを採用することで14cmにまで高められたという(pdf形式の関連資料:センタ制御自動走行システムへの準天頂衛星システムの利用)。これだけの精度があれば、道路における自動走行車の「すれ違い」も実現可能だ。

NECは2013年1月に、GPS衛星単体と、準天頂衛星システムの補強信号(L1-SAIF)を活用したときの測位精度を比較する実験を久米島で実施し、「電離層遅延の大きい(低緯度の)沖縄地域でも、準天頂衛星システムが有効である」という結論を得ていた。2014年1月からの実証実験では、2013年1月に比べて高い測位精度が得られる「準天頂衛星のLEX補強信号」を活用し、(1)電離層遅延の大きい沖縄地域で10cm単位の測位ができること、(2)電子基準点に依存しない10cm単位の測位ができること、といった項目を実証するとしている。

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センター制御による自動走行システム概要 出典:久米島町

外部センターで統合制御、I2V/V2Vの実証も

技術的な特徴の2つ目は、外部制御センターが複数のEVモビリティの走行を統合的に制御することである。外部制御センターでは、各EVモビリティの車両位置や経路情報を把握することで、走行経路を計画したり、通行を管制したり、充電状態を管理するといった役割を担う。

3つ目は、「I2V(Infrastructure to Vehicle)」や「V2V(Vehicle to Vehicle)」といった今後導入が見込まれる社会インフラの実証をすることだ。道路の路肩にある通信機とEVモビリティの間、EVモビリティとEVモビリティの間を無線でつなぎ、外部制御センターとデータをやりとりすることで、安全な自動走行を実現する計画である。

なお現在、久米島町では地域活性化の取り組みとして、今回紹介した「超小型EVモビリティの自動走行実験」の他にも、以下のような事業を進めている。

  • 島の電力の100% 再生可能エネルギー化
  • 全島WiFiを活用した 観光・住民サービスの充実化(全島WiFi)
  • 海洋深層水を使った 植物工場構築(久米アグ)
  • 離島ICT教育モデルの構築
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久米島の地域活性化の取り組みの概要 出典:久米島町