共栄エンジニアリングが人体通信システムを開発中、微細加工と新素材で特性向上

沖縄県うるま市に開発拠点を置く共栄エンジニアリング株式会社(本社:新潟県)が、沖縄工業高等専門学校(沖縄高専) 情報通信システム工学科の知念幸勇教授と共同で、人体そのものを無線通信の伝搬路として使う「人体通信伝送システム」の研究開発を進めている。

人体通信とは、人間の体そのものを仲介にして、データをやり取りする通信技術のこと。2000年代前半から研究および製品開発が進められてきたが、現在も「技術としては面白いけれど、市場導入は進んでいない」という状況だ。

このような人体通信システムに対し、共栄エンジニアリングはどのようにアプローチしているのか――。沖縄県産業振興公社が2014年2月25日に開催された「おきなわ新産業創出投資事業」の研究成果発表会において、研究開発の一端を披露していたので紹介しよう(関連記事LED通信や情報伝送システムの研究も、沖縄産業振興公社が研究発表会を開催)。

共栄エンジニアリングが人体通信システムを開発

直感的にデータをやり取りできる人体通信

人体通信の最大の特徴は、直感的にデータをやり取りできることにある。人体そのものがデータをやり取りする伝搬路になるため、触れるだけでドアを開閉する入退館システムやキーレスエントリーといった用途の他、握手するだけで名刺情報を交換したり、触れることで家電や電子機器に個人の好み情報を伝えパーソナライズするといった新しいアプリケーションへの応用も期待されている。

「直感的にデータをやり取りできる」という特徴の一方で、人体そのものを無線の伝搬路にするという原理上ついて回るのが、既存の無線通信方式に比べて伝搬メカニズムが複雑で、高い通信特性を安定的に維持しにくいという弱点だ。一般的な無線通信方式では、データを送る側と受け取る側の間にある伝搬路の特性は、基本的に時間的に変化せずに一定だ。ところが、人体通信システムにおいては、人間が動いたり、体内に含まれる水分量が変わるだけで、伝搬特性は変化してしまう。

消費電力を約17%削減しつつ、通信感度を約6dB向上

このような人体通信システムに対し、共栄エンジニアリングが取り組んだのが、通信電極(アンテナに相当)を改良することで、消費電力を抑えつつ、基本的な通信性能を向上させることだ*1)。伝搬路の特性が時々刻々と変わろうとも、通信性能に余裕があれば、安定してデータをやり取りできるわけだ。さらに、組み込み機器の形状の変化に対しても、柔軟性が高まることになる。

詳細は発表しなかったものの、「微細加工技術」と「新素材」というアプローチで通信電極の改良を進めたという。同社は、微細加工技術の例として、精密微細加工技術や金型加工技術、樹脂成形技術。新素材の例として、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバー、炭素系複合材、各種導電性材料を挙げた。

実際に通信電極を試作、評価したところ、消費電力を約17%削減しつつも、通信感度を約6dB高めることに成功した。上記の新素材を使いつつ、いかに通信性能を高めたのか興味深い点だが、メカニズムや原理は明らかにしていない。

既に、組み込み用途に向けた汎用性の高い小型人体通信モジュール/タグや、新素材を添加した静電容量式タッチパネル型電極を使ったシステムを試作済みである。対象とする用途は、自動車キーレスエントリーや入退館システムのタッチパネル、スマートウォッチなどのウェアラブルコンピューターなど。

今後、さらに実用を目指した開発を進める。どのような形状・素材の機器にも組み込めるよう人体通信モジュールを小型化したり、通信特性の改善、電極サイズの自由度向上などに取り組む計画だ。

脚注

*1)人体通信には、電流方式と電界方式(容量結合方式)があるが、共栄エンジニアリングは電界方式を採用した。通信時には、送信側および受信側の電極(一般的な無線でいうアンテナに相当)と人の体が容量的に結合した状態になり、この容量結合を介して電界を変調させることで、情報を伝える仕組みである。